風、緑、麦…理想の風景に囲まれて
オーナーシェフである辻さんは、「体に優しいパンを作りたい」という思いで、2015年に愛媛県東温市にお店をオープン。廃墟のようになっていた電車型の建物を改装し、パン屋さんを営んでいる。2021年1月には売り場を大きく広げてリニューアルしたそう。「自然豊かな場所でパン屋さんをやりたくて、この場所に決めました。決め手は、風が吹き抜ける気持ちのいいテラス。お店の下にある緑の麦が風に揺られている風景が、まさに理想どおりだったんです。」と教えてくれた。
ブーランジェリーメゾン辻が位置するのは、東温市の西側、松山市からもほど近い自然豊かなエリア。まさかこんなところに愛媛県で大人気のパン屋さんがあるとは、想像もできないだろう。海外を彷彿とさせる真っ白な洋風の建物は、遠くからでもよく目立つ。アンティーク調の家具や絵でまとめられた店内には、多い日には1600個のパンが並ぶそうだ。どこを見渡してもパン、パン、パン……。「どのパンにしようかな」と、多くのパン好きが目を輝かせる夢の空間となっている。
素材・製法・心にこだわったパン作り
パン=太るというイメージを持つ人も多いのではないだろうか。そのイメージを覆すため、ブーランジェリーメゾン辻では「健康のことを考えた体に優しいパン作り」をコンセプトとしている。「うちのパン作りの鍵は発酵です。じっくり発酵させることで、小麦本来の甘みを引き出せますし、生地もしっかり膨らみます。必要以上に砂糖や生地を膨らますための添加物を入れる必要もありません。」と話す辻さん。48~63時間ゆっくり発酵させたこだわりのパンは、噛めば噛むほど口の中に甘みが広がるのが特徴だ。さらに、素材へのこだわりも大きい。食感や味わい、季節に合わせて約20種類の粉を使い分けているそう。
材料や製法にこだわる姿勢は、まさに職人。しかし、辻さんがもっともこだわっているのは「食べた人に笑顔になってもらえるよう、思いを込めてパンをつくること」だそう。「職人である以上、製法や材料にこだわるのは当たり前。お客様と話していると、パンを作らせてもらっているのだと気付かされます。これからもお客様の声に真摯に向き合い、多くの人に幸せになってもらえるパンを作っていきたいです」。
お客様の喜ぶ顔が原動力に
辻さんは元々、"形の綺麗なパンを焼くこと"に強いこだわりがあったそう。しかし、お客様が求めているパンはどんなものかを考えたとき、必ずしも形や見た目がすべてではないことに気付いたという。「職人の魂的に、ちょっとでも形が崩れたものや焼き目がつき過ぎたものは出したくないという思いがありました。でも、お客様はもっと身近で、等身大で、日常の食卓に馴染むようなパンを求めていることが分かったんです。うちのパンを食べて喜んでくれるお客様を見ると、私も嬉しくなります。私自身周りの人に支えられてここまで来たので、恩返ししたいんです。ほっとひと息ついてもらえるような、どこか懐かしさを感じるようなお店でありたいなと思っています。」
お客様の声や繋がりも大切にしている辻さん。愛媛在住の外国人のお客様も増えてきていることから、海外展開も考えていると話す。ブーランジェリーメゾン辻が愛媛から世界へ進出するのは、そう遠くない未来かもしれない。