関わる人がいい状態で過ごせるように
のどかな景色に囲まれた国道沿いに、どことなく懐かしさを感じる赤い三角屋根が目印のBoulangerie Lafiがある。
オーナーの出合さんは札幌にある大手のパン屋さんで修行を重ねたのち、海外ボランティアに参加した異例の経歴の持ち主だ。西アフリカのブルキナファソで出会った子どもたちに野球を教えていたとき、「ゼロから何かを生み出したい」とパン屋の開業を決意したそう。
そして帰国後、妻と共に生まれ育った富良野の地にBoulangerie Lafiをオープンした。
店名の「Lafi」はブルキナファソの言葉で「いい状態」「元気」を意味する。パンを食べた人や製造に関わる人が元気に過ごせるようにという願いを込めて名づけた。
「大変なことはたくさんあるけど、自分で考えてつくっていくクリエイティブなパンの仕事が大好きなんですよね。スタッフにも、おいしいものをつくることをゴールに楽しく働いてほしい。「良い仕事しよう」という気持ちさえを大事にしていれば幸せかなって。」
出合さん自身、2022年にパリまでパンの技術を学びに行くなど、お店の経営だけにとらわれない自由さを大事にしている。
きっとそれが出合さんにとって”良い状態”なのだろう。
今ではそんな出合さんに憧れて、富良野以外から来るスタッフが5名もいるそうだ。
小麦の挽き方でパンの味が変わる
Boulangerie Lafiでは自家製酵母のルヴァン種を使い、長時間発酵でゆっくり甘みをひきだす製法を採用している。
使用する小麦粉は北海道産だが、それはお店が北海道にあるからという理由ではなかった。
「国内外さまざまな小麦粉を試したなかから、つくりたいパンを再現できたのが北海道産の小麦だったんです。挽き方のバランスや粉のタンパク質量など、マニアックな部分を見て決めています。一番の決め手は、信頼できる製粉会社さんだったことです」。
小麦の挽き方や機械の熱によってもパンの仕上がりが変わってくるというのだから、驚きだ。
こだわりの製法、材料でつくるバゲットや、10年間ずっと変えずにつくっているシナモンロール、クロワッサンが人気。Boulangerie Lafiのパンは道内のホテルや百貨店でも取り扱われているほか、東京を含む全国でのイベント出店の依頼も絶えない。
「個人的には、イベント限定で販売するピスタチオとホワイトチョコのハードパンがおすすめです。見かけたらぜひ食べてみてほしいですね。ラズベリーピューレを練り込んだ生地で、見た目以上においしいんです。」と出合さんがこっそり教えてくれた裏メニューもいつか食べてみたい。
1日限定のパンだけが並ぶ日も
北海道、そして富良野という土地柄から地元の常連さんだけでなく、遠方からも多くのお客様が訪れる。まるで観光スポットのようなBoulangerie Lafiには、お客様に好評なサプライズデーがあるそう。
「普段つくっていないパンだけを並べる日があります。その日に近くにある畑で採れた野菜や新鮮な牛肉を使って創作サンドイッチをつくることも。「その日しか食べられないかも」というレア感が良いのか、常連さんにはおもしろいと言っていただいています」。
お客様はもちろん、出合さんやスタッフもいつもと違うパンに挑戦できる自由な1日。
こうした遊び心を忘れないのも、10年に渡ってお店が愛されて続けている理由なのだろう。
「最初は自宅の一角、ほんの6畳くらいのスペースから始めたお店でしたが、今は3〜4倍に大きくなりました。今後はお客様がもっとゆっくり滞在できるようなイートインスペースもつくりたいですね。実は、パンに使うバターづくりにも挑戦してみたいんです」。
出合さんは10年後、20年後も”いい状態=Lafi”を富良野につくり続けていくのだろう。