まわりの仲間と助け合いながら
ブランジェ(仏語でパン職人の意)であるバティストさんは、フランスや日本での修行を経て、2018年に念願のお店を高崎にオープン。もともと日本文化が好きで、奥様との出会いもあって日本での開業を決めたという。「私はグアドループ島やコンゴ共和国、パン屋が2軒しかないサン・ピエール・ミクロン島など、自然豊かな環境で育ってきたので、都心から離れたのどかな町のほうが居心地がよくて。高崎では、同業のパン屋さんも競争相手ではなく仲間として、とても親切にしてくださいます」と教えてくれた。
ももパンが位置するのは、高崎駅東側の住宅街エリアの一角。大きな窓ガラスにネイビーのフレームが印象的で、あまり日本では見慣れないお店の佇まいに、異国の街並みを感じて早速心が躍る。ドアのサインペイントは、バティストさんのお父様によるものだそうだ。「何よりもパンが目立つように、内装は素朴でシンプルなデザインをお願いした」という店内は、白とグレーを基調にした清潔感ある空間となっている。
素材を生かしたフランス伝統のパンづくり
フランスは、いわゆるオーガニック製品や有機農業など「ビオ」の先進国。ビオに関する法律や認証も定められていて、その意識は主食であるパンにも定着している。「フランス人にとってパンは毎日食べるものなので、安全な素材を使い、その味を生かしたつくり方を大切にしています。必要以上の調味料や添加物が入っていない、シンプルな素材だけでつくったパンのおいしさを、日本でももっと知ってほしいです」と語るバティストさん。
ちょうど取材中につくっていたカスクルート(サンドイッチの一種)にはクリームチーズ、生ハム、イチジク、クルミが挟んであったのだが、これはフランスでよく夕食後に口にする軽食類から着想を得たそうだ。その他にも、カンパーニュバゲットや蜂蜜ゴルゴンゾーラが特に人気とのこと。「季節限定品や新商品を積極的に出すことよりも、定番のパンを楽しみに待っているお客様のために、変わらない味をつくり続けることを大事にしたいと思っています」。
「こんなにおいしいパン食べたことない!」
ももパンでは、フランスでは主流の長時間熟成や硬水の使用によって生地を引き締め、軽い歯応えのハードパンを実現している。天然酵母で全粒粉やライ麦100%のパンをつくっているお店はとても珍しく、日本人には馴染みの浅い食感なのだが、「バゲットにジャムを乗せてお昼に食べるんです」「こんなにおいしいパン食べたことない!って子どもたちが喜んで」「シナモンロールとカヌレは必ず買います」と、ご近所に限らず他県からも続々とお客様がいらしていたことに驚いた。
他にも、毎週欠かさず予約を入れる常連さんの存在や、近隣のカフェやサラダボウル店からの特注パンなど、お客様との信頼関係を端々から感じた。これもきっと、バティストさんの姿勢やパンに対する想いが築いてきたものなのだろう。「来てくださってありがとうございます」と、お客様一人ひとりに掛けていた声が耳に残っている